A-sam Group

長島 正男Masao Nagashima

1962年1月2日、埼玉県生まれ。理容専門学校を卒業後、1987年に理容店『ヘアーズビギン』を開業し独立。1992年にはサロンを増築移転し、2001年に『A-sam Group(エイサムグループ)』を設立。現在は、髪質改善やカラー専門、まつエク専門などそれぞれ異なるコンセプトと専門性を設けたサロンを埼玉県内に7店舗運営している。

7店舗すべてに異なる専門性を設け、効率的な『送客』でリスクヘッジ。『床屋』『パートサロン』『大型サロン』等多様な業態を展開するグループが見る展望。

『床屋』を『美容室』へ変えるには?時代の変化とともに経営者も変わることが必要

理容専門学校を卒業後、1987年25歳で理容室『ヘアーズビギン』を開業し独立。その後も精力的にサロンを出店するも閉店という苦渋の選択も経験。開業から数年は試行錯誤の繰り返しだった。
時代の流れとともに理容室は減少の一途を辿るなか、今後も多店舗展開をするためには主流となった美容室への業態変更が必須であったが、“美容室”としての経営学や接客応対などを学べる場所がなく、また経営者としての視点を養える機会をずっと探していた。
「最初は8坪ほどの理容店からのスタートでした。技術者として腕を磨くためにストイックに頑張ってきましたが、理容師が少なくなった世の中を考慮し、経営者として変わるべきときが来たと感じたんです」

厳しいフィードバックにこそ『成長』の伸びしろがある

理容師として日頃から様々な技術講習に足を運んでいたが、とある新しいシェービングの技術講習を受けに出向いたところ、同じ意識を持つ経営者と知り合ったことがきっかけとなりSPCの会議に参加した。
「技術講習を受けられる場所はこれまでたくさんありましたが、経営の勉強もできると知って参加の意欲が湧きました。早く“技術者”から“経営者”へと転換を図りたかったので何度か会議に参加してから入会を決めました」
入会してまず考えたのは、当時1店舗のみの運営だったサロンをもう1店舗増やすことだった。他店舗展開の目標のために“とにかく挑戦しよう”という強い意欲で1年後には18坪セット6面の美容室を出店。
ところが、集客も求人も思うようにいかずスタッフは言うことを聞かない…挙句、先輩経営者から「このチラシでは人は来ないよ」と集客への厳しい指摘も。
「はじめは厳しめのフィードバックもかなりもらいました。でも、改善すべき点さえわかればそこを伸ばせますし、足りないところほど勉強すれば先輩経営者と同じ視点が養えると考え、がむしゃらに頑張りました」
前途多難な道のりのなか、それでも走り続けることができたのは、一方で「困ったことはない?」とつねに気遣いをくれ、自店まで出向き直接アドバイスをくれる先輩経営者たちのあたたかな恩義があったからだと語る。
「ここまでしてくれるんだと驚きました。親身なアドバイスのおかげで、私はこれまでの苦悩から息を吹き返すことができました」

『教える側』と『教えられる側』、切磋琢磨し合い、つねに変化を生み出せることがメリット

経営者交流は、全国の多様なサロンから刺激を受けながら、つねに自身も変わり続けることができる点がメリットだ。
「ずっと同じ地域のなかだけで交流をすると新しい変化を感じにくくなりますが、全国のサロン経営者と知り合うことで、美容業界のスケールと深さを改めて感じます。事業規模の大きさはもとより、“こんな人になりたい”と思わせるカリスマ性”を持ったたくさんの先輩経営者に刺激を受け続けています。そういう環境に身を置くとバイタリティが湧いてもっと大きな展望が見えてきますね。自分はまだまだだなと」
そう語る長島代表にとって、15代目高橋理事が語った言葉が特に印象に残っているという。
「“3人の師匠を持ちなさい”とよく言われていたんです。原理原則を教えてくれる師匠、苦言を呈してくれる師匠、生き方を真似したいと思える師匠。私はそれぞれ当てはまる先輩がいます。ノウハウやアイデアは勝手に降ってくるものではなく、関わり合った人同志で切磋琢磨し合ってつねに新しいものを生み出していけるものだと考えていますので、この環境にいることで挑戦できた変化は無数にあります」
先輩と後輩、教える側と教えられる側、どちらも影響を与え合うからこそ、時代に即したサービスを発信し提供し続けることを可能にしている。

『育成サロン』から『パートサロン』に切り替えたことがターニングポイント

サロンにとって新人の育成は大きな課題であるが、(有)ベルファミリーの鈴木代表との出会いで、当サロンは大きな転換点を迎えた。いわゆる“育成型”の方針からほとんどのスタッフにパートを雇用する形態へと切り替えたのだ。
「社内の育成システムが確立しておらず、ずっとスタッフの定着率が不安定でした。多店舗展開をするうえでこれは大変な課題になると危惧していましたが、この方針転換で一気に流れが変わり会社は軌道に乗り始めました。貴重な資料ファイルをいただいた岸上代表をはじめ先輩経営者には多大なお力添えをいただきました」
パートサロンへの方針転換で活路を見出した後は、次のステップとして30坪の大型サロンを展開し中途採用スタッフをメインに置きながら新卒の育成も始めている。
「大型サロンを運営するにはパートさんだけで回すのは難しいですが、社員は必ず新卒である必要もないので、当店では中途採用を主にしています。元教育者や元店長のような方が多々いますので、即戦力になる方に教育係をお願いすることで“育成の仕組み”をつくっています」
現在は26名が社員で17名がパートの比率。だが、育成システムを確立したことで定着率は格段に上がった。

7店舗すべて異なる専門性を設けることで『送客』とリスクヘッジが可能に

『A-sam Group』では、現在7店舗のサロンを運営。カラー専門店やバーバー、髪質改善に美まつげサロンなどそれぞれに異なるコンセプトと専門性を設けることでリスクヘッジを図っている。
「7店舗すべてコンセプトを変えることで効率的な“送客”が可能です。全店の来客数のバランスを考えて、“カラーだけでいい”と言うお客様にはカラー専門店『グレッション高坂』を紹介したり、まつエクに興味があるお客様には『ルシードスタイルビギン アイラッシュ』へ誘導したり、自店のなかで送客し合って回していける仕組みを構築しています」
今後も、美容に関する新しいメニューや専門性のあるサロンを精力的に開発し、お客様のトータルビューティーをグループ内でカバーできることをビジョンとして日々進化を遂げている。

 

スタッフと夢を共有しグループ全体の好循環を生み出す

7店舗のサロンそれぞれに異なる専門性を設け運営しているのは、スタッフの個性を配慮した働きやすい環境づくりにも力を入れているためだという。
「雇用スタッフには中途採用が多いのですが、前の会社では見えなかったという将来を具体的に示し、希望年収を得るにはこれをこのように頑張ろう、などスタッフの夢を具体的に共有するようにしています。そういうなかで、色々なジャンルのお店があった方がスタッフ自身が多様な道を選ぶことができ、自主性を育てることにも役立ちます。そこからフランチャイズ出店など希望があれば支援しながら、スタッフのライフステージや希望に合わせて、より長く安定的に働けるような環境づくりを心がけています」
集客面だけでなく、スタッフの育成と成長においてもグループ全体で好循環を生み出している。

INTERVIEW DATA

会社名
A-sam Group
代表
長島 正男
創業
2001年4月
店舗数
7店舗
スタッフ数
43名(うちパート17名)
本社所在地
〒355-0221 埼玉県比企群嵐山町菅谷662-1
取材店舗名
LUCIDO STYLE BEGIN
店舗所在地
〒355-0221 埼玉県比企群嵐山町菅谷662-1
URL
https://a-sam.com

有限会社 Ruttu

比嘉 薫Kaoru Higa

1963年1月22日、沖縄県生まれ。結婚を機に会社を引き継ぎ、2004年 有限会社 Ruttu 設立。「ラブ&ホスピタリティー」をコンセプトに東京・埼玉でお客様のニーズやスタッフのライフステージに合わせたサロンを7店舗展開している。

約95%も失客を回避する独自の『接客メソッド』と28歳から設計する『キャリアプラン』制度で、時代に合わせた選択肢を提案。

28歳、ライフステージの変化を機に経営者としてのキャリア設計がはじまった

高校卒業後上京、通信教育で美容師免許を取得。技術者として腕を磨きながらコンテストにも積極的に参加していた。入社10年目の28歳で現在経営する会社元代表の長女と結婚。先代の逝去を機に会社を引き継ぎ、ヘアサロン『つるしま』を運営。その後独立し、2004年ヘアサロン『ルッツ』を新たに開業した。
当初は理容店であったサロンを“美容室”へと業態変更し、多店舗展開の構想を持っていたが、美容室経営の参考として相談できる相手はおらず、試行錯誤しながら孤軍奮闘を続けていた。
「独立の目標は当初から持っていましたが、床屋から美容室へと業態を変え多店舗展開を目指すには、あまりに情報が乏しく心細い状態でした。そのとき、美容業界に友人がいないことに気がついたんです」

『ノウハウ』と『仲間』。足りないピースが揃ったとき流れが変わった

会社を引き継いでから約10年間、経営と運営をこなしながら事業拡大のタイミングを見計らっていた。そんな折り、出身地の沖縄県から一緒に上京、就職した同期の友人がSPCに入会。これまで切磋琢磨し互いに高め合ってきた彼の“比嘉も向いてるよ”という言葉をきっかけに自身も入会に至った。
「引き継いだ店舗はいわゆる家族経営。今後、業態を変え出店するなど新たな挑戦に取り組むには経営方針を見直す必要があると感じていたので勉強するにはベストタイミングでした。美容メニューの技術やサロンの雰囲気、求人や集客など組織づくりの“ノウハウ”と“仲間”という足りなかったピースが同時に揃ったような感覚でした」
毎週会議に参加するにつれ、技術者から教育者、経営者へと思考の転換ができるようになり、美容室運営を1から学ぶためサロン見学にも参加。
「サロン見学に伺ったとき美容のパーマ施術を見せてもらいました。技術は得意なので1度見ただけですぐ再現できたんです。それで、オッケー!出店しよう!と決めました」
培ってきたたしかな技術と多店舗展開への経営戦略が揃ったとき、長年の悩みが晴れ道が拓けていくのを実感した。

「技術」「接客」「材料」「動員」の『4班制システム』が運営の基盤

比嘉代表が多店舗展開を実現するために自らが営業部長となり立ち上げたのは『4班制』というチームづくりのシステムだ。「技術」「接客」「材料」「動員」のそれぞれに4人の担当者を振り分け、その担当者の下にチームをつくり教育を行う。体系化することで業務がスムーズに引き継がれ、社長や幹部は経営に注力できる環境が整うという。
この『4班制』に取り組みはじめたことで、スタッフの働きやすさの改善とサロンのクオリティアップに成功。そして3店舗目となるヘアサロンを新たに出店し、会社は軌道に乗りはじめた。
「『4班制勉強会』を東京本部で実施し、その営業部長を自ら手を挙げ担当しました。その際にバックアップしてくれた先輩経営者には多大なお力添えをいただきました。この『4班制』でサロン運営の基盤ができたので、これが㈲Ruttsの原点だと思います」

また、経営者交流では“人に任せること”の要領やコツを伝授され業界の有力者たちからアドバイスを得るたび、まさに“目からウロコ”の連続だったという。
「1人分の視野では広い景色は見えません。人は年齢によってライフステージが変わっていきますが、自分に足りない視点を様々な立場から教えてくれるのが“経営者交流”です。自店のことだけでなく、業界全体の未来を考え後輩のために一肌脱いであげるという選択ができる経営者であれば理念を共有できると思います」
事業拡大など大きな展望を持ちスタッフとともに成長できるような上昇志向の経営者にこそ“経営者交流”は向いていると語った。

スタッフの『個性』を伸ばす教育方針へシフトしたことがターニングポイント

先輩経営者のサロンにはなぜスタッフが集まるのか。スタッフ確保に悩んでいた当時、サロン見学に伺い色々なスタッフの働き方を見ていてあることに気がついた。
「スタイリストにも個性があり得手不得手がありますが、苦手はスタッフ同士でフォローし合いながら、個人の長所を伸ばしているような教育方針が見えたんです。そのとき、自店のスタッフの長所は活かせているだろうかと自身を顧みました」
将来的に店舗が増え、スタッフを直接管理できる範囲に限界があることを考慮した場合、短所を指摘しひとつの模範に当てはめる教育よりも、長所を伸ばす方が理に適っているのではないかという考えに辿り着いた。
「真剣だからこそスタッフと意見のぶつかりが生じたりすることもありますが、きちんと対話し次の日には明るく声をかけます。“短所”は許して“長所”を伸ばす教育を心がけ、相手を受け入れながらスルーもできる“鈍感力”を大切にしています」
スタッフ個々人の短所を直すことに時間をかけるよりも、長所を何倍にも伸ばし、やりたいことがあれば自主性に任せるという教育方針に切り替えたことで定着率は安定。今ではスタッフ自ら撮影イベントを企画開催するなど働きやすいサロン環境を実現している。

約95%も失客を回避する『1対2』『1対3』の独自接客方法

㈲Ruttsでは、特にコミュニケーションに重点を置き独自の接客方法を取り入れている。
「“1対2”と“1対3”の接客方法という独自のメソッドがあります。たとえば、1対1のお客様と施術スタイリストの間にもう1人スタッフを混ぜて3人で会話をするんです。これが“1対2”の接客。みんな巻き込んで会話をするというのが昔からのスタイルなのですが、それを続けた結果、担当スタイリストが退職してもお客様の約95%はそのまま残ってくれるんです」
まるでサロン全体から接客をされているような安心感を与え、リラックスして心を預けてもらうことが失客を回避する秘訣というわけだ。“コミュニケーション”については新人の頃から技術力と同じくらいその重要性を指導し続けている。

また、会社の風土として特徴的なのは“スタッフの真面目さ”だという。『4班制』のコツコツと積み重ねる教育がしっかりとした基盤となって現在もサロンを支えている。
「東京のローカルな駅に店舗を構えているので、口コミは効果的な集客方法になります。そのため“この地域で口コミ1番か2番をとろう”と目標を掲げると、スタッフは地道にお客様にお声がけをしたり、実現するまで全員がコツコツと真面目に取り組みます。そんな場面を幾度となく見てきました」
仕事をするうえで、責任を持ってひたむきに取り組む姿勢に勝るものは他にない。スタッフの“誠実な人間性”を何よりも信頼していると語った。

現在運営しているサロン7店舗は、“美髪クリニック”や“ファミリーサロン”など、すべてのお店でコンセプトが異なる緻密なブランディングを図っており、全店にタカラベルモントの『YUME』シャンプー台を導入。“癒やし”や“リラクゼーション”メニューも好評を博している。
「同じようなサロンはつくらないようにしています。人事もそれぞれのサロンコンセプトに合ったスタッフを配置し、個性を活かせるような環境づくりに努めています」
口コミ、ブログ、LINEなど発信にも力を入れており、ホームページには自由闊達な社風が伝わるような工夫が施されている。

 

美容コンテストで優勝。次世代のクリエイティブを発信し続ける

ヘアコンテスト&ショーイベント『STYLING COLLECTION』にて、自身は準優勝を獲得、スタッフが個人部門で優勝を果たした経験があり、クリエイティブにも力を入れている。スタッフが自ら企画開催、またはSPCの大会を利用して『撮影会』『ヘアショー』『社内フォトコンテスト』など精力的に実施。創造性と組織力をつねに高め続けている。

28歳から組み立てる一人ひとりに合わせた『キャリアプラン』制度

自身が28歳で結婚したことを機に雇用を見直し、現在はライフステージの変化に合わせた“キャリアプラン”制度を設けている。
「28歳を分岐点としてそこからどのように働くかのキャリアプラン設計をしていきます。女性であれば出産後も同じ給与で復帰できる働き方を提案したり、男性であれば“のれん分け”や“業務委託”など、スタッフのやりたいことをできる限り叶えられるよう支援します。本人が将来に悩む前にあらかじめ進路を用意しておき、スタッフの希望に合わせたプランを組み立てていくという仕組みです」
サロン側から個人に合った進路を提案してあげることで、不安や迷いで離職するスタッフが激減。転職予定だったスタッフも28歳の面談で改めて希望のキャリアプランを立て直し現在も㈲Ruttsにて活躍中だという。
昨今の不安定な情勢において、自分の希望にピッタリ合った未来を会社とともに設計できるこの『キャリアプラン』制度は当サロンの将来性を無限に広げている。

INTERVIEW DATA

会社名
有限会社Ruttu
代表
比嘉 薫
創業
2004年9月22日
店舗数
7店舗
スタッフ数
52名
本社所在地
東京都練馬区田柄1-2-22
取材店舗名
Ruttu donna e uomo
店舗所在地
東京都板橋区成増2-11-8インフィニティ1F
URL
https://www.ruttu.com

株式会社アエラス 代表取締役

桂 辰麻Tatsuma Katsura

1970年10月8日、神奈川県生まれ。25歳で通信制の美容学校に通いながら美容師を目指す。2005年に独立開業し、現在2店舗を運営している。生涯顧客のための店販とお客様に合わせたカラーリングの提案でカラー比率70%を超える“大人女性のためのオーガニックサロン”を経営している。

『スタッフの将来』込みで描く10年後のビジョン。『店販』でギネス級売上を達成するサロンの秘訣に迫る。

開業翌日から大ピンチ!『スタッフが誰も来ない』1人のスタート

25歳で通信制の美容学校に通いながら美容師を志し、2005年にヘアサロン『Aeolus(アエラス)』を開業。
セット面は4台でシャンプー台は2台、10坪ほどの店構えから美容室経営へ乗り出したものの、業界に知り合いはおらず同業者との接点もないため、すべて我流でオープン。
すると、オープニングスタッフとして雇用した2名が次の日には店に来なくなった。オープン2日目にしてサロンは不測の事態に。
「スタイリストは自分だけ。1人で店を開けて回さなければならない状態で、悩んでも相談できる人はいませんでした。経営と運営の両方を1人でこなさなければならない現実に直面し、限界を感じました」

美容室経営の第1歩は“労務”を知ることから

開業早々、窮地に立たされたことから求人募集に取り組むも、新しいスタッフはなかなか定着しない。そのうえ頻繁に入れ替わることで売上にも影響がではじめていた。スタッフ確保の厳しさを痛感していた折りに、知り合いから他のサロン見学の誘いを受けたことがきっかけとなりSPC入会に至った。
「もともと未経験から美容業界に入ったため、有名な美容師や業界についてあまり詳しくなかったので、入会時に先入観はまったくありませんでした。それより、頻繁に相談にのっていただいたことが本当にありがたかったですね」
とりわけ、異質な美容業界において“労務”に関する知識がとても役立ったという。
「一般企業で“非常識”にあたることが、美容業界では“常識”になる場合もあります。まずは一般との違いを認識し、美容室としての労務管理体制をしっかり整えることが重要だと学びました」
スタイリストはヘアサロンにとって欠かせない存在だ。労働環境や雇用に関する制度をきちんと整備し、安定的にスタッフを確保していくことで、開業当初から比べ事業規模は約8〜9倍にも拡大。
今ではスタッフと共により大きな目標を描くことができるほど雇用状態は改善した。

経営にダメ出しの嵐。固定概念を捨て0からの立て直し

まずは、準会員として『メディアモーダー会議』に参加。経営についての学びを深めようと意気込んでいたが、出だしから鋭い指摘を浴びることとなった。
「我流でやってきたこれまでの経営方針を話すと、“自己満足になっていないか”との指南を受け初めて気が付きました。お客様のことを考えすぎるあまり、スタッフと向き合えていなかったのではと」
経営者として足りない視点への意見をもらううち、否定されたような気持ちになりながらも“店を維持するために経営者としてやるべきこと”を最優先に考え、会議のたびに自身の固定概念を一旦更地に戻してから、まったく新しく“経営戦略”を積み上げるように努めた。修正点が多いほど改善の余地も多いということだ。
「ほぼすべてのやり方を見直しました。素直にアドバイスを実践していくと、少しづつスタッフも定着しお客様も増えていくのを実感し、我流を捨て0から経営方針を立て直した効果が目に見えて現れ始めました」
それから店舗拡大の構想を実現するまでにさほど時間はかからなかった。
「ずっと路面店の物件を探していたので、不安もありましたが移転を決意しました。夢を語ると先輩経営者たちが背中を押してくれ、つねに経営者としての考え方を教えてくれたことが今の成功につながっていると実感します」
そして『Aeolus(アエラス)』は、目標にしていた路面店へ移転。その後も順調にスタッフが増えはじめ、事業拡大を図るまでに会社は急成長。現在は2号店となる『Lana(ラナ)』の2店舗を運営している。

『スタッフの将来』込みでサロンのビジョン。経営者交流で養った視点がターニングポイント

美容師を志すには一般的に遅いとされる25歳という年齢から業界に飛び込み、右も左もわからない状態で先輩経営者から学んだのは“スタッフの将来を一緒に考えてあげられる家族のような社風”だ。
これまでの孤独経営から、SPCに入会したことで“経営者”としての視野を広げ成長できたことがいちばんのターニングポイントだった。
「開業当初はサロンのビジョンを聞かれても答えることができなかったかもしれません。しかし今ではスタッフに多様な将来性を示すことができます。経営に挑戦したいなら暖簾分けを、技術を極めたいならそのために新たな道を作ることも可能です。スタッフの夢と挑戦を全力で支援します」
“スタッフの将来性”までを見込んだ当サロンの明確なビジョンはスタッフの数だけ幅広く広がっている。

昨年はギネス級店販売上を記録!『店販はお客様との信頼関係のバロメーター』

『Aeolus(アエラス)』では、特に店販に力を入れている。“店販はお客様との信頼関係のバロメーター”というモットーを掲げ、新人の頃から心がけるよう指導。会社の風土にもなっている。
「たとえば、美味い焼き鳥屋があれば人にオススメしますよね、商品も“良いものをオススメしよう”その感覚で良いと思うんです」
毎年12月の店販売上は技術売上に対して1:1にもなるが、2020年はコロナ禍による“巣ごもり需要”が増したことから店販は史上最高の売上を記録した。
「ただ“物を売る”のではなく、本当に良いものを紹介することを大切にしています。お客様の大半は髪のダメージを気にされているため、ホームケアの重要性を丁寧に説明しながらオススメするなど、一生担当させていただく心持ちでお客様と向き合うよう心がけています」
1人ひとりと時間をかけて信頼関係を築いていくことで“生涯顧客”を目指している。

 

カラー比率は70%。ニーズに合わせたニッチメニューで需要拡大を図る

『Aeolus(アエラス)』のコンセプトは『美と健康を大切にする大人女性のためのオーガニックサロン』。
1人ひとりの髪の健康やデザインなど要望に合ったカラーリングを導き出すことを得意としている。
「アレルギー対応のオーガニックカラーをはじめ、カラーメニューだけで10種類を取り揃えています。お客様の描く理想を丁寧にカウンセリングしピッタリ合うものをご提供できます」
客に合わせた細やかな提案やメニューの提供はニッチな市場をスピーディーに開拓できる当サロンならではの戦略だ。

スタッフが1人立ちするまで責任を持つ手厚いサポート体制

「スタッフは“ファミリー”だと思っています。誕生日や月1回の食事回を開催するなど、全員でコミュニケーションをとることを大事にしています」
将来を預かるスタッフを“子供”のように案じ、責任を持ってひとり立ちできるところまで送り出すことが今の夢だと語る。
「1から起業することの苦労は嫌というほどわかっているので、フランチャイズや新店舗を任せるなど、スタッフができるだけ安全に“やりたいこと”に挑戦できる環境を整えたいと考えています。ゆくゆくは現場を長く支えてくれるやる気のあるスタッフに渡していきたいですね」
1人からスタートした当サロンの未来を担うのは、今も増え続ける“ファミリー”の存在だろう。

INTERVIEW DATA

会社名
株式会アエラス
代表
桂 辰麻
創業
2005年8月27日
店舗数
2店舗
スタッフ数
15名
本社所在地
神奈川県相模原市南区相模大野3-16-7 MATビル 1階
取材店舗名
Hair Design Aeolus
店舗所在地
神奈川県相模原市南区相模大野3-16-7 MATビル 1階
URL
https://aeolusk.jp

株式会社BLESSING 代表取締役

徳田 勝義katsuyoshi Tokuda

1981年6月18日、埼玉県生まれ。リビングに勤務後、2007年に独立しヘアサロン『BLESSING』を開業。
2015年に屋号を『ku-to』に変更。現在ヘアサロン4店舗、アイラッシュサロン1店舗を運営。地域1番のファミリーサロンをコンセプトに30店舗の出店を目指している。

 

『技術』と『接客』教育の棲み分けで複数店舗を効率的に回転。『失敗しないサロンづくり』の極意とは

目指せ『30店舗』出店!知りたいのは『多店舗展開のノウハウ』

リビングに勤務後、2007年に独立しヘアサロン『BLESSING』を開業。その後サロン名を『ku-to(クート)』に改め、現在は埼玉県内に5店舗を構える。
開業当初から目標に掲げるのは“サロン30店舗の出店”だが、自社に適したビジネスモデル構築のための具体的な戦略を模索するには情報が足りないと感じていた。知りたいのは“多店舗展開のノウハウ”。
「開業するからには、30店舗は出店したいと最初から決めていました。ただ具体的に何から手をつければ良いのかと考えあぐねる日々でした」

便利なシステムはうまく活用しながら、自社ビジネスモデルを構築

そんな試行錯誤の日々のなか、SPCの先輩経営者がサロンを訪れたことで状況は変わった。
「多店舗展開について勉強中のちょうど良いタイミングだったので“経営戦略”や“集客の増やし方”などの話をまず聞いて、1度会議に出席してみようかなという気持ちになりました」
そうして入会後、“30店舗を出店すること”が目標であることを先輩経営者に伝えると「まず大事なことは“スタッフの確保”、それが成功したら次に“集客”だよ」と他店の前例を交えながら目的に合わせて具体的なアドバイスをもらった。
スタッフが増えれば生産性は上がり、集客が成功すればさらにスタッフの経験値が向上、サロンのクオリティアップを図ることができる。
本来、難しいとされる新人の育成には『ワールドアカデミー』※1をうまく活用し、教育を外部のプロに任せることで自社の負担を軽減。その分“経営”に注力できるという土台をつくり上げた。
「ようやくサロンが軌道に乗り始め、現在は5店舗を展開中です。自社ならではのビジネスモデルも確立してきましたので、向こう10年間で30店舗出店できるという見通しが充分につきましたね」

※1『ワールドアカデミー』とは、1年でカット技能が習得できる学校のこと。

『経営者交流』は知識の精度を上げ、遊びにも行けるフランクな場所

毎週会議に参加して変わったことは、自分の知識や考え方の精度が徐々に上がっていることだという。
「求人の応募が多すぎる場合どうすればいいか、ブログ・ネット発信・口コミ・紹介などの集客方法をすべて実践するとどれくらい数字に反映されるのか…はじめはわからないことも、教えてもらったノウハウを実践しながら意見交換をするうち情報に無駄がなくなるため、より有益な知識に磨かれていきます。そして気がつけば、今度は自分が教える側に立っていて、ダイレクトに自身の成長も実感できます。“経営者交流”とは、互いの知識の精度を上げるための貴重な場所であると思っています」

たとえば、“同じ趣味を持ったゴルフ会員のようなイメージ。情報交換もできて経営者同士で勉強もできるような仲間がつくれるコミュニティはなかなかない”と話す。
「“25,000円を払って友達を作りに行く場所だよ”と先輩経営者から言われましたが、たしかに会員制クラブとして考えれば納得です。損得感情よりもまずは同じ悩みを共有できてフランクに付き合える仲間がいるということ、友人が増えたというところが自分には金額以上の価値を感じます」
経営者である自分自身を客観的な視点から叱ってくれる友人や先輩はある種“ファミリー”のような貴重な存在であると語った。

『求人』『集客』『教育』3大要素の循環を促進させたことがターニングポイント

複数店舗を経営していくには「求人」「集客」「教育」の3つをうまく循環させ続けることが肝であると学んだときターニングポイントが訪れた。
「これまで勤めていたサロンでは“自分で売上を立てること”が大切だと教えられてきましたが、経営者交流では“自分はマネージメントに回り、スタッフに売上をつくらせること”が重要だと言われ、経営者は真逆の視点を持つことに気が付きました」
それから、求人ではスタッフを多めに雇用。次に“技術面”の教育を外部に委託することで、ベテランスタッフの新人教育にかかる労力を軽減。その結果、複数店舗を効率的に回転させ集客力がアップした。
“人”がいなければ組織は拡大しない。複雑なことを考えるより「求人」「集客」「教育」この3大要素を絶えず循環させることが“30店舗出店目標”を実現する要だ。

『技術』と『接客』教育の棲み分けで効率化

ヘアサロン『ku-to(クート)』は、お子様から大人世代まで幅広く愛される地域密着型ファミリーサロン。平均単価が8,500円とファミリーサロンとしてはやや高めに設定。その理由は、カットに1時間あまりを要してしまう経験の浅いスタイリストの生産性を上げるためだ。スピーディーに数をこなせないのであれば、逆にしっかり時間をかけ丁寧な施術をすることで客単価を上げるという方針に切り替えた。
新人の技術教育はSPC加盟で参加可能な「ワールドアカデミー」を利用。専用のウィッグなどを使用した実践的なカット技能が1年で習得できるため新卒採用から早期スタイリストデビューが可能に。
「『ku-to』では1年でカットデビューさせ、他の技術は順番に習得していく方法をとっています。この点が他社と違う“教育方針”です。技術面を外部に委託している分、当社ではコミュニケーション能力や接客応対における心遣いなどの教育に力を入れています」
客の施術メニューの割合から見ても、20%程度のカラーやパーマより100%であるカットの技術を先に習得することがもっとも効率の良い育成順序であるという。
「“この先輩に教えてもらいたい”などの価値観はもはや古いように感じます。小規模サロンでしっかりとした教育体制を維持するのはこれから先難しい時代になると考え、“技術面”と“接客面”で教育の棲み分けをすることで効率化を図っています」
自社でやることと外部に委託することを明確に分けたことが様々な相乗効果を生みスタッフの自主性を引き出している。

また、独自の役職として“店長”の次に“ネクストリーダー”というポストを設けている。代表が店長を、店長がネクストリーダーを育成するといった分担が成され、店長教育においては、“会社・社長・美容”の3つについてきちんと矜持を伝えることを徹底している。

若いスタッフの自主性を尊重し、想定の倍近い売上を記録

注目したいのは、2021年3月にオープンしたアイラッシュサロン『en_by ku-to』だ。厳しいコロナ禍において、初月から目標の売上を超え、5月には想定の倍近い売上を叩き出した。
かねてより構想していたアイラッシュサロンを開店するにあたり、自社でスタッフを募ったところ、志望者が集まり自主的に役割を分担。知らない間にデビュー1年目のアイリストが店長に就任していたという。
「責任を与えた方が成長することを経験上知っていたので、代表である僕はあえて関わりませんでした。“一緒に頑張ろう”という気持ちは共有しますが、実際は若いスタッフの自主性に任せています。それがある意味『ku-to』独自の文化でもありますね。店長をはじめスタッフが自ら考え行動することが今後の多店舗展開において最重要であると考えています」

小規模パッケージの失敗しない『ビジネスモデル』

理想とするのは17坪から20坪でスタッフは4〜5人、売上は300万円程度のパッケージでスモールビジネスをスピーディーに展開すること。それが『ku-to』の描くビジネスモデルだ。あくまでも店長が管理しやすい規模で突出した売上のスタッフはつくらずアベレージを高く持つことが重要なのだ。
「僕は他店を参考に新しいアイデを取り入れることが得意なんです。成功しているモデルを参考にすれば低リスクで挑戦ができるし、自社のオリジナリティはそれから色付けても遅くはない。その点でいえば、“経営者交流”はビジネスモデルの宝庫。新店をオープンするたびに「チラシはこう配布した方が効果があるよ」「3店舗目の出店は人に任せてこの人数でやった方がいいよ」という具合に、状況に応じて成功例を教えてもらえたので、素直にそれを実践するとまず失敗が少なくなります。そして4店舗目の出店のために意見を伺うと、“もう自分でできるはずだよ”と言われました(笑)」
スタッフの自主性を見守りながら自由に育む“教育方針”。それを中心に据えて培ってきたこのビジネルモデルは成功のビジョンしか映さないことを確信している。

INTERVIEW DATA

会社名
株式会社BLESSING
代表
徳田 勝義
創業
2007年3月3日
店舗数
5店舗
スタッフ数
33名
本社所在地
千葉市稲毛区弥生町2-21
取材店舗名
Ku-to+
店舗所在地
埼玉県さいたま市南区南本町2-3-8志賀パレス405
URL
https://ku-to-minamiurawa.com